一あるいはいかにして少年は難しい顔をするようになったか一
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かえってきた名古屋スタンダード
名古屋。それは今回の旅の主要目的のひとつであり、もっとも驚きと発見に満ちた街。

元街を発って名古屋駅に着いたのは夕暮れ時だった。一番の問題は今夜泊まるホテルの予約がまだ出来ていないこと。三ノ宮にホテルに泊まったときと同じ手法で予約しようと思っていたのだが、かねてから弱っていた携帯電話の充電がついに切れてしまったのだから困ったものだ。充電のついでに夕食をとろうと思い、適当な店を探して歩きはじめる。

名古屋といえば、おそろしく広く込みいった地下街が有名である。エスカ、ファッションワン、テルミナ、ダイナード、ユニモール、メイチカ、サンロード、ミヤコ地下街、フードターミナルという計9つのエリアから構成されていて、その渾然たるや初めて足を踏み入れるひとならば間違いなく立ち位置を見失うであろう迷宮の如き。ぼくは手軽な食事どころを探して歩き回ったのだが、何度も同じ場所に戻ってきてしまって愕然とした。しかし現地の名古屋ッ子はいとも簡単にするすると通り抜けていく。“地上よりも地下のほうが人口密度が高い”というのは驚異の進化であるような気がするが、これは地上の道路事情に起因しているのだろう。

そして名古屋といえば「みそかつ」である。目についた看板にそれと銘打っていたのはチェーン店風の雰囲気だったけれど、これ以上さまよい続けるのも気が引けたので意を決して入ってみる。なかなか混雑しているようだった。奥の席に通されてメニューを見て、みそかつセットを注文。ついでにコンセントを貸してもらえるかどうか訊く。すると「すみませんがやってないんですよ、コンセント」という予想に反した返答がかえってくる。やっていないとはどういうことなんだ? と確かめてみると実際に電気が通っていなかった。しかしそれなら何のためにコンセントが常設されているのだろう。

みそかつは赤出し味噌だれにカツをディップして食べる。甘みとコクのある濃厚な味わいが美味である。かさねて味噌汁も赤出しにしてしまうダブり具合が名古屋らしい。「携帯電話の充電でしたら、むこうの通りで扱っていますよ。有料になりますが」と先程の中年の店員さんが教えてくれた。「そうですか、ありがとうございます」とぼくはにこやかに対応したが、金を払ってまで充電するくらいならもう一軒どこかのカフェに入ってコンセントを貸してもらおうという魂胆だ。

そんなわけで店を出るとふたたび地下迷宮の世界へ身をゆだね、すこし歩いたところで、レトロな趣きのあるカフェの看板にいかにも名古屋らしいフレーズがあるのを発見する。「抹茶カプチーノ」とは、これはなんだ。よし、ここにしようと中に入る。壁際のテーブルに座って、メニューを運んできた若い女性の店員さんに例のものを頼む。店員さんは若干怪訝な顔をする。男ひとりで左様なスイーツらしき注文をするものだから、まあ仕方がない。頼むほうだって恥ずかしいのだ。

そして抹茶カプチーノは新世紀の到来を告げるように運ばれてくる。容積の半分以上が生クリームに包まれているというおそるべき事実に、名古屋得意の小倉あんに加えてなかにはシロップ漬けの栗までトッピングする甘さへの執拗なこだわり。これには申し訳程度に添えられた缶詰のみかんもまるで存在意義を為していない。ひとくちストローを吸い込むと、予想をはるかに超越した甘さに口腔は浸されることになる。生クリームのしつこい甘さを消すことなく抹茶風味の紅茶のようなとにかく甘い液体がたたみかけてきて、無意識のうちにグラスの水のほうへ手が伸びてしまう。終盤には上方の生クリームが液体の中へ溶け込み、革変したミルクティーのようにそれはもう筆舌に尽くし難い甘さを極めることになる。嗚呼、抹茶カプチーノ…。

「あの、このコンセント借りてもいいですか?」とぼくは訊く。「あ、いいですけど、たぶん使えないと思いますよ」と多少サバサバとした口調で店員さん。ほんとうだ、ここも使えない。「携帯の充電だったら向こうの通りの…」ああ、やはりそうなるのか。この地下街全体コンセントが使えないとなると、もしかしたら充電屋はいい稼ぎになるのかもしれない。なんだか(地下)街ぐるみで充電切れを起こしたひとを罠に陥れているようだ。まあ果たしてそんなに多く充電を切らすひとがいるのかというと疑問だが。

結局その充電屋(というかカメラ屋の一部)に行ってみると、20時までで受付を終わりという張り紙がある。時刻は20:02。店主にどうしてもだめかと訊いてみる。「まあ、営業時間の関係だからねえ、それは」ええ、そんな薄情な。「どこかでコンセントを貸してもらえないでしょうか?」と尋ねると「いや、だいたい普通貸してくれないよ」という冷笑で一瞥された。鳥取でも天橋立でも快く貸して頂けたのに、名古屋はなんてケチなのだ。都会というのは寂しいところである。

仕方がないので携帯電話は諦めて、徒歩で宿泊するホテルを探すことにした。駅周辺には多くのビジネス・ホテルがあるし、まだ時間も早いのできっと空いているだろう。きらびやかで絢爛なネオンと鳴り響く車のクラクションが名古屋の夜を騒がしく彩っている。

| 西日本旅情編 | 00:38 | comments(0) | trackbacks(0) |
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