一あるいはいかにして少年は難しい顔をするようになったか一
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祭りのあと
締めの花火が打ち終えられると、人びとは余韻を味わう間もなくいっせいに帰りはじめ、予想通り、駅前は人の群れでごった返しになった。長蛇の列ができていた。そのあおりを受けて駅前のあらゆる飲食店はあふれるほどの満席になっていた。ロッテリア、スターバックス、ミスター・ドーナツ。よくもこんなに人が集まっているものだと、ぼくは感心した。皆、それぞれの土地へ帰っていくのだ。

ぼくはそのような人の流れに逆らって歩いた。人ごみを避けるように、なるべく人目につかない場所を求めて。当初から下関の夜は野宿をするつもりだった。花火のおかげでどこのホテルもいっぱいだったし、YH泊まりが三日も続いてさすがに飽き飽きしていた。まあどうにかなるだろうと思っていた。しかし、当然のように、物事はそううまく運ばない。

結局、ぼくは花火を観たあの山のふもとの公園に辿り着いた。駅からすこし離れているし裏通りに面しているので、人通りはほとんどない。ベンチがふたつ並んでいたので横になるぶんには不自由しなかった。問題は、山のふもとであること。すなわち虫の多さと、風の通らない蒸し暑さにあった。何度も腹をきめてもう寝ようと試みたけれど、そのたびに耳元に羽音が聞こえて起こされた。ぼくはあきらめて場所を変えることにした。

その後、どこまで行ったか覚えていないくらいひたすらに歩いた。方角としては関門橋を目指していたような気がする。唐戸市場のあたりも通った。寝る気分じゃなくなっていたし何をしたらいいのかもわからなかったので、歩くしかなかったんじゃないかと思う。足の裏のまめがつぶれて熱をもっていた。痛いという感覚はなかった。それよりも歩くことを優先した。

いつのまにかぼくは駅前に戻ってきていた。ひとの群れは消滅していた。浴衣のカップルも人員整理の警備員もいなかった。終電の時間はもうとっくに過ぎていた。ぼくは広場の石椅子に腰をおろして一息ついた。街はおそろしいくらい静かだった。どこかから誰かの高笑いが響いたけれど、それもすぐに夜の闇に吸い込まれていった。

そのうちにここで寝ればいいかと思った。ひらけているぶん、風が通ってすこし涼しい。よく見ると、まわりにふたりほど先客がいた。どちらも熟睡しているようだった。しかし横になると地熱が伝わってきて相変わらず蒸し暑い。からだじゅうが汗でひどくべたついていた。思えば朝は宮島で、午後は尾道でも歩き続けていた。相当な水分量を消耗していたんだと思う。いちどシャツを替えてみたけれど、すぐにまた汗だらけになった。だんだん腹立たしくなってきて、最終手段としてサウナにでも行こうと思ったのだが、どこも満室だった。花火大会の余波はどこまでも浸透していた。もう眠れる気分じゃなかった。

ぼくは自分の居場所を見つけられずに夜の街をさまよった。華やかに見えた夕暮れの街は、いまや表情を持たない虚構にしか思えなかった。ぼくは孤独だった。朝まで営業しているレストランをずっと探した。しかしそのような明るいネオンはぼくの目に映らなかった。日曜の午前三時にはあらゆるものが活動を停止していた。その影だけが、ぼくに存在の確かさを投げかけていた。

途方に暮れても行き着く場所はどこにもなく、また駅前の広場に戻って座り込むと祈るような気持ちで始発電車を待った。太陽が近づくにつれて逆に意識は遠のいていった。時間はゆるやかに流れ、世界はいつものように新たな一日を刻みはじめる。まるで何事もなかったかのように。

| 西日本旅情編 | 13:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
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