一あるいはいかにして少年は難しい顔をするようになったか一
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鳥取において鳥取を偲ぶ
鳥取の駅前は、見た感じでは意外と都会らしい。電車から見えていたこのあたりの緑豊かな田舎風景とは打って変わって、通りには数々のシティ・ホテルが建ち並んでいる。東横イン、ワシントン・プラザ…。今日はどうしてもホテルに泊まるのだ、と暮れ行く太陽を追いながらぼくは固く決心した。もう下関の二の舞を送りたくないし、シャツだって洗いたい。涼しい部屋で快適に眠りたい。しかし、事はやはりうまく進まない。

ホテルはどこも満室だった。行く先々のホテルは先客の対応に追われている。ぼくは困惑した。どうして鳥取がこんなにも混んでいるのだろう、と。たしかに予約していなかったぼくが悪い。けれど一般の客の泊まる部屋がないほど混雑するなんて、誰に想像できるだろう? 時刻は19時すこし前だった。ぼくは途方に暮れた。

冷静に考えてみると理由はいくつかある。まず宿泊施設が鳥取付近に密集していること。要するにこのあたりで一泊しようとすれば、ひとは必然的に鳥取に集まるのだ。次にそれなりの観光地であること。ぼくの頭には“鳥取=砂丘”というイメージしかなかったけれど、そういえば温泉の名所でもある。社内旅行のような一行も見られたし、団体で泊まれば部屋はほとんど埋まってしまう。

脳裏にまた野宿か、という思いがよぎった。ぼくはホテル泊まりの希望をあきらめきれず、とぼとぼと町中を歩いた。しかしやがてそれも悪くないかと思うようになった。下関の一夜を経験したあとで肝も座っていたし、どうせホテルは空いていない。いっそのこと開き直ってしまったほうが楽だろう、と。

一度そう決めてしまうと急に腹がへってきた。すこし歩くと『いままち食堂』というかなり大衆的な(というか勝手にやってくれ的な)食堂に行き着いて、ちょうどいい具合に大盛りのカツ丼を食べた。洗い場ではサル顔系のきれいなお姉さんがワイルドに皿を洗っていた。ぼくはそのお姉さんにことわって、携帯電話を充電するためコンセントを貸してもらった。声の感じでは23、4歳くらいかなと思う。ぼくよりちょっと上という印象をうけた。

お姉さんに一時のお礼を言って店を出た。満たされた気分にはなったけれど、問題はこれからどうするかという点にあった。当てもなくまた町中を歩く。小さな店の連なった商店街が区画されて続いていて、そのほとんどはシャッターが下ろされている。そのうちに渋い雰囲気の喫茶店をみつけた。この旅では困るととりあえず喫茶店(カフェ)に入るのだ。

ここの店主は相当な変わり者だった。40代も半ばといったところで、縁のない眼鏡をかけている。いろいろと世間話をしてみたのだが、何を言っているのかわからないことが多々あったし、だいたい視点が定まっていない。大丈夫かなあと心中ぼくは不安だったけれど、コーヒーの味に関しては抜群にうまかった。ミルクも砂糖も必要ない。フラスコで温めたりして煎れ方もすごくアナログだった。「自分の手で作ったのがいちばんうまいんですよ」と店主は言った。毎朝ちゃんと豆を挽いているらしい。

結局、二時間くらいはその喫茶店にいたと思う。店主は延々と職業柄の愚痴をこぼしていた。話し出すと止まらないタイプのひとのようだ。ぼくは適当に相づちを打った。どうせやることもないし、とりあえずコーヒーはおいしい。「まったく、商売あがったりですよ…」「パソコンっていうのはどうもよくわからんね…」「娘が漫画家になりたいっていうんでね…」

せっかくだから夜の砂丘でも観に行こうかと思ったけれど、歩いてだと一時間以上はかかるということなので惜しくもやめておくことにした。限界にきている足で一時間の徒歩はさすがに自殺行為である。仕方がないので野宿対策にコンビニで虫除けスプレーを買って(下関のときはとにかく虫が憎かった)適当な寝床を探して歩いているうちに、奇しくも銭湯らしき温泉を発見した。夜も遅かったので閉まる直前だったけれどなんとか入ることができた。この偶然がなかったら、この日の野宿は不快なものであったに違いない。

駅前の広場の隅っこに陣取って、近くの蛇口で歯を磨いてベンチにタオルを干した。家なき子状態にもすこし慣れた。しかも虫除けスプレーによって防御態勢は完璧である。雰囲気も静かで、すこしはましに眠れることを祈る。しかし鳥取はつくづく不可解な町だと思う。深夜にもかかわらず若者がつねに出歩いているし、その多くは“鳥取的”じゃない。ぼくの妙な先入観のせいかもしれないけど。

| 西日本旅情編 | 23:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
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