一あるいはいかにして少年は難しい顔をするようになったか一
szot
別冊『偏屈ダイアリー』 vol.23 6/27 Wed.

「公園のハトは何も考えないことについて考えているのかもしれない」

日中の陽射しは真夏のそれのようにじりじりと肌を焦がす。アスファルトの地面は十分に熱を吸い込んで、手をつくと火傷しそうなほど熱い。まだ6月だっていうのに、とぼくは思ったけど、これも温暖化のせいかなと思い直して宙を見上げた。澄んだ青に白い雲。気分が悪くなりそうなくらい気持ちよく晴れた6月の空。いまいましい梅雨の時期なんかとっくに終わってしまったように思える。

ハトはぜんぶで6羽、ちょうど北斗七星みたいな格好で並んでいた。もっとも1羽数が足りないけど、どこが欠けているのかぼくにはわからない。それに北斗七星がこんな配置だったかも定かではない。とにかくハトが6羽、うなだれるようにして地面にうずくまっていた。暑いのはハトも人間もお互い様である。

公園には誰もいなかったので、ぼくは煙草に火をつけて隅のベンチに腰をおろした。それに気づいたのか、エサをもらえるものだと思って近寄ってくるハトA。つられてからだを起こすハトB。関係ないところで木の葉をつっついていたハトCは、くるっと首を半回転させてこちらを向いた。エサなんかなにも持っていないんだけど、いつのまにか周囲を包囲される少年A。豆鉄砲の代わりに煙草の灰をハトBの鼻先に落とす。素早く反応して駆け寄るハトD、しかし何事もなかったような顔をして足早に通りすぎて行く。からだを縮めて再びその場に座り込んだハトB。ハトEはさっきから熱心に毛繕いしている。おっ、飛ぶか? いや、軽くジャンプしただけだった。そういえば残りの1羽はどこへ行ったんだろう。

北斗七星の陣形はもう見る影もなく、ハトたちは思い思いに歩いたりうずくまったりしていた。それでも、一定の距離感は保つようにしているように見えた。このハトたちはいったい何を考えているのだろうか。ハトAは急に足を止めると、そのまま剥製にでもなったかのようにじっと動かない。おそらく何も考えていないのだろう。ハトは平和の象徴とされているけど、それはハトが平和であるということがどういうことなのか知らない生き物だからだ。もしこれらの行動が計算の上に成り立っているものだとすれば、ローワン・アトキンソン並みの食わせ者である。でもそれはない。ハトは何も考えない。目の前のエサに死ぬ気で食らいつき、ところかまわず糞をまき散らすだけだ。

しかしその点において、人間はハトを責めることはできない。少なくともハトは同じ種族で傷つけ合おうとしない。止まったり跳ねたり阿呆のような仕草をしながらも、せっせと本能的に生きている。もしかしたらハト社会にもいじめやら何やら深刻な問題があったりするのかもしれないが、核武装したハトというのは、今のところ聞いたことない。ハトが殺されるのはたいていが人間の仕業によるものだ。エアガン、ナイフ、ときにはキック。崩れ落ちる平和の象徴…。

「そろそろ時間じゃない?」とでも言いたげな目で、ハトEがぼくを見ていた。ハトは時間の概念を知らない。休憩の終わりにため息をついて、仕事に戻る煩わしさを感じることもない。ぼくはフィルターすれすれまで吸った煙草を備え付けの吸い殻入れに放り込むと、ベンチを立った。強烈な陽射しにあおられて立ちくらみがする。そのとき、ふと気づいた。平和の象徴は白いハトじゃなかったっけ?

つづく。[szot@jcom.home.ne.jp]
CALENDAR
SMTWTFS
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< April 2020 >>
SPONSORED LINKS
CATEGORIES
ARCHIVES
RECENT COMMENTS
RECENT TRACKBACK
あちらの小部屋
MOBILE
qrcode
LINKS
PROFILE
このページの先頭へ