一あるいはいかにして少年は難しい顔をするようになったか一
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シティ・オヴ・グラス
評価:
ポール・オースター
角川書店
¥ 441
(1993-11)
孤独な作家のもとにかかってきた、一本の間違い電話。それはある男を尾行してほしいという依頼だった。作家のクィンはほんの好奇心から探偵になりすまし、男のあとをつけはじめるが、事件は一向になにも起こらない…。アメリカ現代作家の第一人者、ポール・オースターのデビュー作であり、『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』と続く、ニューヨーク三部作の第一作。

これはネタバレなのかもしれないけど、事件はたしかに何も起こらない。けれど、「たしかに何かが起こったのだ」というこの感覚。はじめてオースターさんが日本に紹介されたとき、“いっぷう変わった探偵ミステリー”というレッテルを貼られたそうだけど、これほど純文学として刺激的な物語もそうそうないと思う。『幽霊たち』のあとがきで訳者の柴田元幸さんは、ニューヨーク三部作に共通する雰囲気を「登場人物が“どこでもない場所”で“誰でもない人間”になっていく状況」と述べられていますが、まさにそのとおり。

この作品の物語をかたちづくるものは言葉と思考である、とぼくは思う。一通りの筋とわりと意外なオチではあるけれど、読み手は登場人物の言葉と思考を通して、間接的に精神の自由を体感することができる。そこに言葉という固定観念はなく、なにを意味するのか、正しいのか、または存在するのか、「自分のあたまで思考する」ことを余儀なくさせられる。事件は一向に起こらない。しかし、その過程を体感する前と後では、たしかに何かがすこし違っている。それは優れた小説だけが持つひとつの大きな力ではないかと、個人的には思います。

ピーター・スティルマンの独白は夢に出てくるくらい面白かった。オースターさんの書く英語は簡明で無駄がなく、知的で詩的で音楽的な文章だということで、英語力向上のためぜひ原文にチャレンジしてみたい。たしか朗読とかもやってますよね、このひと。リスニングを鍛えないと。
| | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0) |
幽霊たち
ああ、ようやく追いついた。なんだか最近忙しく、紀行文なんかを始めたばっかりに更新が遅れていましたが、急きょ『西日本旅情編』の番外カテゴリをたてる(ひとつの記事を無理やり二つの記事に分ける)というウラワザを行使することでなんとかこのような弁解に辿り着きました。まあ、整理されて文字数もへるので見やすくなるのではないでしょうか。そのかわり更新頻度はあげていきたいと思っております。

* * *

“本日の一冊” 幽霊たち / ポール・オースター

私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向かいの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー…。'80年代アメリカ文学の代表的作品!

とにかく、冒頭の一節が相当かっこいいです。以下抜粋。

まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる。ブラウンがブルーに仕事を教え、こつを伝授し、ブラウンが年老いたとき、ブルーがあとを継いだのだ。物語はそのようにしてはじまる。舞台はニューヨーク、時代は現代、この点は最後まで変わらない。ブルーは毎日事務所へ行き、デスクの前に座って、何かが起きるのを待つ。長いあいだ何も起こらない。やがてホワイトという名の男がドアを開けて入ってくる。物語はそのようにしてはじまる。

一読してもややこしくて意味わかんないですけど、でもとてもリズムがよくて、流れるような文章だなあ、というのは感覚的にわかりますよね。柴田元幸さんの訳がもろにはまっているのもありますが、“音楽のように文章を書く”というのがオースターさんのひとつの作家性であり、村上春樹さんも同様に影響をうけていると思います。

色をモチーフにした登場人物の名前に、映画『レザボア・ドッグス』を想起しました。この作品では色に具体的な意図が示されている(たとえばホワイトとブラック)のだと思いますが、タイトルの『幽霊たち(GHOSTS)』というのもけっこう伏線になってきますね。実にうまいです。

先の読めないおもしろさと、“考えるということを考えさせる”というプロセスに引き込まれすらすら読んでしまいました。そしてあの結末! ぜひご覧あそばせ。
| | 01:13 | comments(0) | trackbacks(0) |
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